質問1
なぜ定期借家を導入したのですか。その理由を教えてください。
従来型の普通借家契約に適用される正当事由制度は、戦時下の統制として昭和16年に創設されたままのものであり、明渡し等において貸主・借主間のトラブルの一因となっているともいわれています。
さらに、住宅ストックが世帯数を大きく上回る現状では、正当事由制度が良質な借家の供給を阻害する大きな要因ともなっています。
「土地の所有」から「土地の有効利用」へと意識改革が叫ばれている今日、本格的な居住の場としての良質な賃貸住宅を求めるニーズが高まっています。今、まさに21世紀にふさわしい国民の豊かな住生活を実現する必要があります。
民間の市場で良質な賃貸住宅等が供給されますと、借主も多様な賃貸住宅の選択肢が増えることとなります。定期借家によって、このことが実現できます。
質問2
定期借家契約は、新規の建物賃貸借に限るということですが、定期借家権の施行後に、借主が変わった場合でも、従来型の建物賃貸借契約で結ばなくてはなりませんか?
このような例の場合、従来型の建物賃貸借契約でも、定期借家契約のどちらでも結ぶことができます。
質問3
そうすると、一棟の建物において、従来型の建物賃貸借契約と定期借家契約という二つの例が存在するということが生じますね?
当然そういう場合も生じます。ただし、定期借家権導入後であっても、居住用の建物については、定期借家権導入前から従来型の建物賃貸借契約を結んでいた人が、引き続いて同一の建物を借りる場合は、当分の間は従来型の建物賃貸借契約を結ばなければなりません。
つまり、ある賃貸住宅(部屋)を従来型の賃貸借契約から、定期借家契約にするためには、借主が変わった場合とか、借主が違う建物(部屋)に変更(例えば、もっと日当たりの良い建物(部屋)に変更するとか、角部屋を望んで移動するといった条件変更)があった場合でなければできません。
この点、注意が必要です。
質問4
借地借家法第3節の見出し「期限付建物賃貸借」を「定期建物賃貸借等」と改名した趣旨はなんですか?
旧法の「期限付建物賃貸借」は、所有者が、自己の都合(例えば、療養・転勤等)によって、所有建物を一定期間貸す場合に至った時に、期間が来て所有者が所有建物に自ら居住する場合に、確定的に返還してもらうことができる、としたものですが、定期借家契約は、自己居住用のものに限らずこれから結ぼうとするすべての賃貸建物を包含した契約形態となりますので、新たな名称としたわけです。
質問5
借地借家法23条に1項を追加していますが、その趣旨はなんですか?
23条の規定は、「建物譲渡特約付借地権」についての規定ですが、現行法では、30年後に借地権が消滅した場合でも、借家権(地主が建物を買い取った場合でも)は存続し、その際の借家契約は、期間の定めのない賃貸借契約とみなす(23条2項)、となっています。
23条の2項の次に、1項を追加して(つまり23条3項となります)借地権消滅後の借家を借家人が引き続いて借りる場合においても当事者が合意すれば、定期借家契約を結ぶことができるとしたわけです。
これにより、賃貸人(家主)は、借家の返還時期を確定することが可能となりました。
質問6
借地借家法29条に1項が追加されましたが、その趣旨はなんですか?
改正法で追加された29条2項は、「民法第604条の規定は、建物の賃貸借については適用しない」という条文ですが、民法604条においては、建物賃貸借の存続期間は上限20年とする、としてます。
定期借家権に限らず建物賃貸借の契約期間は、本来当事者の自由合意を柱としているので上限を定める必要はない、という観点から、29条2項を追加したわけです。
質問7
再契約の場合、必ず書面による契約が必要ですか?
必要です。書面によらない契約は、従来型の借家契約となります(法第38条1項)。
質問8
定期借家契約は必ず公正証書でなければなりませんか?
必ずしも公正証書の必要はありません。改正法(38条1項)では、公正証書等としており、定期借家契約である旨(契約の更新がなく期間満了をもって終了すること等)が明記してあれば、別の契約書形態でもよいとしています。
事業用建物の賃貸借契約の場合は長期契約の例もありますが、一般的な居住用賃貸借期間は、2~3年が多いと思います。短い賃貸借期間の契約に、公正証書を義務づけることは、公証人手数料もかかり手間もかかります。
つまり当事者の負担増となりますので、当事者の意思が確認できれば、公正証書以外の契約書形態でもよいとしたわけです。
質問9
改正法38条1項中「第30条の規定にかかわらず」とありますが、この規定の趣旨は何ですか?
借地借家法30条の規定は、賃借人に不利な特約は無効であるという規定ですが、改正法38条の「更新はしない」という特約は、賃借人に不利な特約とみなされるおそれがありますので、定期借家契約においては、契約書の特約条項で更新は行わないと定めた場合は、有効であるとする必要があります。
そこで条文で明記したわけです。
質問10
同じく、改正法38条1項中「第29条第1項の規定は適用しない」とありますが、この規定の趣旨は何ですか?
29条1項は、1年未満の契約は期間の定めのない契約とみなす、という規定ですが、世の中には、数カ月の短期出張や留守の間だけ貸したいという場合もありますので、一年未満でも、定期借家契約を結べることにしたわけです。
質問11
改正法38条2項において、賃貸人に定期借家契約に関する書面による説明義務を課していますが、具体的にはどのようなことを書いて説明すればよいのですか?
改正法が施行されたことにより従来型の普通借家契約と定期借家契約の二つの制度が並立することになったため、賃借人が定期借家の趣旨を十分に理解しないまま定期借家契約をしてしまって後でトラブルになることを、契約の段階で未然に防ぐことが当事者双方にとって重要です。
そこで、この規定は、賃借人の意思決定のための情報を十分に与える観点から、書面による契約に加えて、賃貸人に書面による説明義務を課したものです。
書面には、
① 契約の更新がないこと
② 期間の満了により賃貸借が確定的に終了すること
③ 契約の終了年月日
などを記載します。
標準様式の「定期賃貸住宅契約についての説明」を参照してください。
質問12
書面による説明をしなかったときは、契約はどうなるのですか?
書面による説明義務を怠った場合には、建物賃貸借契約のうち、契約の更新がないこととする特約(定期借家契約である旨)の部分のみが無効とされますので、その契約は従来型の普通借家契約であったものとみなされます。
したがって、法定更新(26条)、正当事由(28条)等の規定の適用を受けることになります。
質問13
書面を交付して説明したことをどのように立証するのですか?
賃貸人が説明義務を果たしたかどうかが争いになった場合の対応としては、説明の際に交付した書面と引き換えに、賃借人から書面の受領書を受け取り、それを保管しておいて、裁判所に提出して立証する方法などが考えられます。
標準様式「定期賃貸住宅契約についての説明」においても賃貸人からの書面の受領書の方式がとられています。
質問14
改正法38条4項において、建物の賃貸借契約期間が1年以上の場合は、期間満了の1年~6カ月前に、建物の賃貸借は終了する旨を通知しなければならないとしていますので、賃貸借契約期間が1年未満の場合は、通知義務はないと理解しますがそれでよいでしょうか?
その理解で結構です。そもそも、通知期間満了の通知義務は、賃借人が、契約期間を忘れてしまう懸念が想定されるところから、それを防止するため、あるいは賃貸人が再契約の意思がない場合、賃借人が、代替賃貸建物を捜す余裕を与えるため設けられた規定です。
しかし、1年未満の契約期間の場合、賃借人が期間満了を失念することは通常考えられません。よって、1年以上の場合に限ったわけです。
質問15
改正法38条5項の趣旨は何ですか?
この規定は、200m2未満の居住用建物の賃借人の中途解約を定めたものですが、賃借人は、やむを得ない事情で、賃貸している建物を自己の生活の本拠として使用することが不可能となった場合は、解約の申入れ日から1カ月を経過することによって賃貸借契約を解約することができます。
しかし、この中途解約はむやみやたらにできるわけではなく、転勤、療養、親族の介護などのやむを得ない事情が発生した場合に限る、と歯止めをしています。
質問16
改正法38条7項の趣旨は何ですか?
この規定は、借地借家法32条(借賃増減請求権)に対する対応措置です。ご承知のように、32条は、貸主・借主の当事者は共に、借賃増減請求権を有する、としておりますが、実際には、借賃の増額又は減額を正当とする裁判が確定するまで解決は先送りされます。その際、裁判所の意思が強く反映されます。また、確定するには相当の期間を要する例が多く、加えて、判例が継続家賃抑制主義の色彩が強く、どちらかといえば、借主優位の条文といわれてきました。
そこで、中・長期の定期借家契約で借賃改定の特約をした場合は、32条の適用は受けず、その特約の定めによることとしたわけです。
質問17
通知義務を行って再契約の意思の無いことを明示したにもかかわらず、期間満了後居座った場合、賃貸人の取り得る対応策は如何に?
賃貸人は、賃借人に対して、不法占有を理由に明渡しを求めることができます。また、損害賠償を要求することもできます。
質問18
定期借家契約の場合、敷金、保証金、礼金、権利金の授受はどうなりますか?
定期借家契約は、従来型の借家契約が持つ不確実性(貸した建物が返らない、家賃を改定できない、解約にも正当事由と立退き料がいるがどのくらいかかるかわからない)、といったことを排除するために創設された契約形態ですから、従前の借家契約の慣行的な金銭授受は、改める方向で進むべきであると考えます。
特に不返還の性質をもつ礼金、権利金といった一時金は、従来型の借家契約がもつ不確実性を担保する意味合いから、慣行となった金銭であるので、定期借家契約にはなじまないと思われます。
ただし、敷金、保証金は、賃料の不払いを担保する性格の一時金の性格を持っていますので、従前どおりの扱いでよいと考えます。
質問19
定期借家契約を仲介する宅建業者の役割はどうなりますか?
定期借家契約では、契約時に賃貸人に課せられている書面による説明義務や賃貸借契約期間の途中(半年~1年前に)で賃貸人に課せられている通知義務を、賃貸人に代わって行うという役割が生じることが考えられます。
また、立退きや再契約になった場合は、当事者の間に立って、転居先や再契約条件などのコンサルタント的な役割がますます強くなると思われます。
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